先日、バイトを追加しようとして、とある飲食店に面接を受けに行った。
待つ事2~3分、颯爽と目前に現れた面接担当の方は、あろうことか女性であった。
体のラインが別かる黄色の夏シャツに、薔薇よりも説得力のある赤い口紅。僕の前に座ったかと思うと、さり気なく、その適度に伸びた髪を両手でかきあげた。見た所、20代半ばといったところか。
歩き方、仕草、話し方、
その一つ一つが、出来る女、自信に満ち溢れた女の薫りを周囲に放つともなく放っている、そんな印象の女性であった。
この瞬間の僕は、おそらく口をポカーンと開いき、呆気にとられていた事であろう。
一成「えっ、店長さんですか?」
女「あっ、まぁ、はい一応。」
一瞬の間に僅かな心地悪さを感じたらしい女は、一度は席に座る事を控えようかと思ったのか、今し方現れた方に体を向けかけた。が、当然、場も場なだけに、思い直して大人しく僕の前に鎮座した。が、そこに女の自信は揺らがなかった。
一成「素敵ですね。驚きました。」
女の利発さは、”素敵”の意味を男性的なものと的確に捉えたらしかったが、それを決して顔には出さず、むしろ素直な喜びだけを表現するのに充分な技量を持していた。
女は差し障りのない礼を言った。
………………
聞くと、もともとの出身は隣県との事だった。結婚のためにこの土地には来たらしい。
先刻から、女の左手薬指に清楚に嵌められた指輪が気になっていた。この合点がいった。その女の手は、その振舞いからはちょっと想像できない様な、しかし、やはり汚れのない美しさであった。この喧騒の街にあって、一種の夢を見ているかの様でもあった。
結婚しているからには、汚れの無いという事もないはずなのだが、そんな物にも染まらぬという彼女自身の強い意志が、この女にこの種の美しさを添えているのかもしれなかった。
いづれにしても、僕は、この目の前にいる女に一直線に惹かれていくのだった。
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面接は卒なく終わり、僅かばかりの互いの身の上話も程々にして、二人は席をたった。
まだ、夕飯時には少し早い時限の店内は、客もまばらであった。そのためか、厨房から聞こえる中華鍋の音が、昏れなずむ窓際の紅に鮮やかに響いた。
そうして、店を後にすべく僕の片手が抑えた扉を後ろからさり気無く力添えする女の瞳は、僕の近くに淑やかであった。
女の髪を撫でる初夏の夕風は、意味深に二人の未来を予感させた。