一成は好奇心がけっこー旺盛で、タイミングを見ては旅行に出かけます。
旅行とは言っても、今はお金を掛けられはしないので、ただ知らない土地に行って、ただただ歩き廻るだけなのですが。
しかし、行く先々で、いつも素敵な出会いがあります。まだ見ぬ景色、人、感情、発想。これほど、一成をして興奮せしむるものはありません。
この出会いを逐一文章にしようとすれば、いくら時間があっても足りません。
しかしながら、わざわざ文章にしなくても、この瞬間を生きる一成の大部分を形成してくれているはずの財産です。今日の一成の表現に、確実に生きております。
ある地方での事。
時も夕暮れ、一成のお腹もそろそろ鳴り出す頃に辿り着いた一軒の飲み屋がありました。
入ると、そこには、店の馴染客とでもいうような方達が4~5人ありました。
「あら、よくいらした!ところであなた、成人してるの?」
という風に受け入れられたのを記憶しています。
アグレッシブな一成は、その方達とも直ぐに会話が始まります。
会話が始まって間も無く、一成の単簡な紹介に共鳴するように、馴染み客の内の一人が、カウンター席から素早く一成を振り向きました。
もう60歳にもなろうかとする程のダンディな男性でした。ダンディとは申しましても、別段格好にお金を掛けている風も無く、その印象は自身の中から滲み出ているというようでした。
一成の自己紹介とは、無論音楽の話に皮切りします。
振り向いた男性は、
「やっぱりそうかー!!
いや、今君が入って来て直ぐに感じたよ。
私はね、2万人からの人を見て来たんだ。
私が面接する時にね、何を見ると思う?
目だね。
目を見るんだ。
伸びるな、と思わせる人の目と、その他多くの人の目とでは確かな違いがあってね。
私は、大企業の社長を育てもしたし、その他中小企業の社長を3人も育ててるんだ。
もし君の目指すところが音楽でなければ、私は今すぐ君を雇い入れているところだよ。
しかし、残念ながら、音楽は私の専門外なんだ。
………………
いや、しかし、久しぶりだな。
私は20年振りにその目を見たよ。
いいものを見せて貰った。ありがとう。手放しで応援するよ。」
こんな事を言うのです。
いやいや、この方は、一成という不埒な人物をとんでもなく見誤っているのに違いはないのですが、それでも、こうした辺鄙な土地の片隅で、何らかのご縁で同じ時をご一緒し、何かの共鳴を起こして、またそれぞれの明日に戻る。こんな素敵な時間を一成は存分に満喫しております。
皆様も、たまには、普段のルーティーンを抜け出して、ちょっと違う世界に足を向けてみてはいかがでしょうか。案外、面白いものが眠っている可能性大です。
あー、あの時のあの人、今どーしてるのかなー。