一成には、あるノイローゼがあります。
犬の鳴き声に過敏に反応するノイローゼです。犬の鳴き声を耳にすると、過度のストレスを感じます。
原因と発起は学生時代にあります。強いコンプレックスを抱え、人との交わりに支障をきたした一成は、人生の行く末にとてつもない不安を抱きます。その時期はまさに思春期でもあり、将来に対するネガティブな感情も相まって、日常の圧力に押しつぶされるのです。
夢を成すための学問や一切の準備に膨大な時間と質を求めた一成には、実家の周りの１０匹前後の終わりのない犬の鳴き声が、鋭い棘を有した攻撃に感じられるのです。また、金銭繰りの力もなく、誰かに頼るにも、そもそも人に会えない状況であった一成の精神は、ついにその環境に耐え切れなくなり乱れ始めます。
その時期に、自宅やコインランドリーのガラスを割りまくったり、拝借している人様の家のドアを力ずくでもぎ取り、そのままそれを振り回して一面の壁を穴だらけにしたり、何かを叫びながら駅前の自転車を片っ端から破壊したり、そのほぼ全てが警察沙汰でした。今、ここに生活できているのは、ほとんど奇跡なのかもしれません。
あの時期に、情けなさや不安、疲れから流した涙は、今でも一成の人格を深く染めています。
この頃に、お金の必要性を痛感します。
「何としても稼いで、お前を救ってやる！」
と。
この時の意志は、以後揺らいだ事がありません。
そして、そんな中にあって、やはり勉強事に取り組みたい一成は、生活の諸事にあらゆる工夫を凝らすようになります。
その数々の出来事が、今となってはいい思い出です。
そう、ホントに色んな事があっなぁ………。
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次週に続く。
