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    【一成の first kiss】

    一成のファーストキスは、一成に強烈な印象を残した。


    思わぬ場所での思わぬタイミングであった。


    しかも、いきなり濃厚なヤツだった。
    うん。
    濃厚な、、アレっ。

    一成は大いに驚いた。




    場所は東京の歌舞伎町だったかと記憶している。

    酒の入った体を持て余して、ふらっと立ち寄ったのが、その町のクラブ(ディスコというヤツ)だった。

    入り口で簡単な持ち物チェックみた様なのを済ますと、地下へと続く螺旋状の階段に通された。その暗がりを恐る恐る進むと、間も無くバスドラの四つ打ちが朧げながらに僕の体へとぶつかって来た。


    俄かに鼓動が働き出した。


    そして、その空間は愈々僕の眼前へと展開された。

    それほど広くはない空間で、年齢層の低い男女が鳴り響く音楽に銘々の踊りを重ねていた。
    今流行りのEDMだった。



    僕は、初めての体験に心持ち遠慮を覚えながらも、早速背が高めのテーブルとイスに腰を据え、様子を傍観した。


    東京の都心なだけに、いくつかの国の顔触れが満遍なく蠢いていた。
    皆、流れる洋楽を体で記憶しているといった風で、お決まりのフレーズに差し掛かると、寸分の狂いも無く一体した掛け声で躍動してみせた。
    そこには、昔からその場所に確かに存在し続ける若いエネルギーがあった。
    時間を忘れて”今”を愉しむ若いエネルギーがあった。


    人々が生きてる、と思った。




    そんな”時代”や”人間”というものに思いを馳せるともなく馳せていたのだが、その内何とは無しに(と言ったらいいか、本能からと言ったらいいのか)好みの女性が目に入り始めた。

    そうして間も無く、一人の年頃の女性が僕の視線に気付き、一緒に手を取り踊っている相手の男性の視界を掻い潜って僕に視線を返して来た。
    二人はどうやらカップルではなかったらしく、しばらくすると、

    「もう少しだけ!」

    と女性を求める男性を然りげ無くかわして、僕の思い通り、彼女は僕に近づいて来た。

    そこで僕らがどんな会話の遣り取りをしたか思い出せないが、唯一、彼女が、

    「私、マッチョ好きなの!」

    と素直に、実直に僕へと向かって来た事実が、”都会の女”を僕に記憶させた。
    その時僕は、よっぽど彼女と夜の街へ消えてしまおうかとも考えた。
    が、その時も、昔の僕のプラトニックが脳裏に浮かんでは強く僕を抑え、目の前の素敵な女性と駆け落ちのような事になってしまう事を是正し得なかったのか、結局、彼女を元の男の場所へと返してしまう運びになった。

    この素敵な女性は、いつのまにかその空間から姿を消してしまっていた。はっと思い、辺りを見渡したが、先に一緒に手を取り合っていた男の姿もやはりそこから消えていた。
    二人が一緒なのか別なのか、その時もう僕の判然に追えるものでは無かった。


    こうして、この女性は、畢竟僕と手を取り合う事なく、その印象だけを残して、結局は地球上に存在する大多数と同じ”擦れ違うだけの人”になってしまった。
    今の僕だったら、所謂”恋”の関係性を抜きにするとしても、その縁に手を伸ばす努力くらいはしていただろう。


    まぁ、しかし、そんな遣り取りの中で、僕は、この場所が、”そういったこと”を求める男女がパートナーを探しに来る場所でもある事に勘付いたわけだ。当時まだ田舎者だった僕には刺激的な感覚であり、一種のワクワク感、優越感を抑えきれなかった。
    僕も”生きているんだ”という事を実感した。


    まぁ、前述のプラトニックの女性について色々と思いを巡らせたが、このまま想いを大切にするのも素敵な事であるのには違いないが、それと引き換えに現実の僕と言ったら何があるのか、僕という人間にどんな説得力があるのか、と考えた時に、ただただ自分という人間の子供さに行き着くだけだった。

    まぁ、その場の成り行きでもいい。

    意味なんていちいち無くたっていい。

    前に進んでみようか。



    そんな事を思い、

    しかしながら、
    思い立ったら、事は早かった。



    先刻とは別の女性であったが、しかも、明らかに年が下の、どちらかというと”可愛い”に属する子だったが、まぁ、僕が自然と求めた事には違いない。

    まず、男と女の始まりは、ズバリ、

    “視線”である。

    笑。

    ーーホントかよ!?


    まぁ、その辺の流れは変わらない。

    んで、今度は、その子が僕の近くに来た時に、僕は、すかさず手を伸ばしたんだ。

    その子は、ほとんど躊躇う事なく、僕の手に自らの手を預けて来た。
    僕はその手を優しく引き寄せた。

    この子と僕のフィーリングは抜群だった。
    相性が良かった。
    お互いの呼吸が近かった。

    僕は自然と彼女を抱き締めた。
    彼女も僕も、空間の後ろから人々を眺めるように、
    僕は背の高いイスに座ったまま、
    彼女は立った姿勢のまま、背中を僕に押し当てるように、
    つまり、僕は彼女を後ろから包んでいたのだ。


    初対面で、互いの名も知らないまま、また、二人は殆ど言葉を交わさないままであった。

    ただ僕は始終彼女を愛撫した。


    抱きしめる手に幾度も力を込めた。

    斜め後ろの角度から、髪をとくように、まるで自分のもののように弄った。

    僕らは、もしかしたら、周囲の人達から羨望の眼差しを勝ち取っていたのかもしれない。
    近くにいた友達(その日、その場で友達になった人達)からは、

    「ユー  ガイズ  アー  パーフェクト  カップル!!」

    と賞賛された。



    しかしながら、思い返せば、その瞬間僕らは周囲の事など全く視界に入ってなかった。

    完全に二人だけの世界にいた。





    しばらくすると、僕は彼女の唇を人差し指で優しく叩き始めた。彼女の心にノックするように。
    言うまでもない、ストレートに彼女のkissを要求したのだ。



    直ぐに彼女は何の反応も示さなかった。


    この時、僕は、もしかすると、この子はそこまでを僕と共有するつもりはなく、逃げ出す口実でも考えているのだろうか、と一瞬臆病な自分がよぎったりもした。

    しかし、こうと決めたら迷いの無い僕のことゆえ、
    「どうなってもいい。無くすものなど何も無い。」
    と、飽く迄強気の自分を前面に出した。



    僕が彼女のkissを諦め、抱き締める手を緩めこそしなかったが、切り替わったEDMに気を取られ始めた頃、彼女は何度かに渡って自身の頬を僕の頬に擦り付けて来た。

    僕は、

    「ん?何?どーした?」

    と、何度も優しく耳元に囁いた。


    しばらく、その同じ遣り取りを僕らは続けた。


    その間、1、2曲のEDMが過ぎただろうか。

    空間は以前として賑やいていた。
    人々は、あいも変わらず、時を忘却していた。


    僕は、腕の中の彼女の事とは違う、いろんな事に思いを巡らせていた。
    僕も同じく時を忘却していたのだ。



    そんな時、頬に触れてる腕の中の女性が、斜目後ろ、少し上にある僕の顔を見上げる形で、その美しく整った小顔の中の、更に小さくまとまった唇を僕の唇に重ねて来た。
    そして、その中の柔らかなものまでも一緒に僕へと押し当てて来た。


    彼女は、前面的に僕を受け入れていたのだ。


    この時、僕は”時間”どころか、”自分”さえも忘れてしまった。




    都会の女に、自分というものが完全に埋もれてしまったようだ。



    自分というものを、俯瞰するように第三の目で持って見続けて来たもう一人の自分が完全に崩壊した瞬間だった。




    僕らは暫くそれを続けた。



    もはや、僕らの耳にEDMは鳴っていなかった。




    ーーーーーーーー


    この日の出来事は僕の大切な思い出の1ページに仕舞ってある。


    結局、僕らは互いの名前もアドレスも交換しないまま、互いの”明日”へと戻って行った。

    もうおそらく、二度と僕らが街で出逢うことは無いだろう。
    仮に出逢ったにしても、あの時の彼、彼女として互いを正しく認識する事は無いだろう。



    あれは、謂わば、行きずりの恋であった。


    そして同時に、二度とは経験出来ぬかもしれぬ、最高の出来事であった。




    僕は、二度と逢う事の叶わない夢のような恋を記憶の中の”あの日”に大切にしまっている。

     

     

     

     

     



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