まず、
「この人達、一体何語を喋ってるんだ?」
ってのが第一印象。
アニョ?ラグー?ビヤンド?
・・・はぁ?・・・えっ、なんて?
言ってる事がさっぱり分からない。
何か唸ってるのは分かるんだけど、全然伝わって来ない。
でも、今になって考えてみたら、アレはフランス語だったんだな、きっと。それもそうだ、だってフランス料理なんだもの。
それで、まずはここの言葉を覚えなきゃ何も出来ねぇ!って思ったの。
で、僕が目を付けたのがオーダー表。そこにはそこで使われている重要な言葉の殆どが記されていたからだ。
そのオーダー表は、お客様から承った注文内容をサービスの方達が厨房に伝えに来る際に一緒に持って来て、厨房側からも確認可能な場所に貼り付けてくれる。無論、そのオーダー表に従って、僕ら厨房は段取りを素早く組み立てるといった流れなのだった。
しかしながら、そのオーダー表はお客様のお帰りと同時にゴミ箱行きとなる。
それを僕は、
「おーおーおー、ちょい待て!何やっとる、そんな貴重な物をたやすく捨てるでない!」
と、言いたかったのだが・・・、
言えるはずもなく、
しょうがなしに、一度はその場を見送るのだった。
そうして、休み時間になると真っ先にゴミ箱に向かって、捨てられてしまったその子達を一つ残らず助け出し、家に持ち帰る日々が続いたのだった。
そして、料理長が僕に預けてくれたフランス語辞書と一緒に、言葉を学ぶと共に、オーダーの流れを体に馴染ませていくのだった。
今振り返ってみると、この時の経験が、その後の自分に何らかの形で繋がっているのかなぁ、なんて思ったりもする。
そういえば、その辞書を貸してくれる時、料理長言ってたなー。
「おまえ、辞める時は絶対返せよな。
ばっくれんじゃねーぞ。」
って。
僕をしっかりと繫ぎ止めるような言い方してたなー。
でも、僕はそれを返す時、普通に「はい、ありがとうございました。」って返したんじゃないんだ。
ちょっと、印象に残るように(って、別に計算したわけじゃないけどさっ)、カッコつけて返したんだ。映画や小説に出てくるような言葉も置いて来たんだ。
僕、そういうところ、浸ってるんだよなー。
まぁ、そんな事も後に書いて行きます。
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また次回。
僕に興味がない方−−殆どの人がそうでしょうが−−には退屈でしょうが、もう少しお付き合い下さい。