料理長は、何故か、僕の事をいつもフルネームで呼んだ。そして、常識知らずで未熟者の僕をそのまま受け入れてくれた。
「オメェ〜ホント面白ぇーヤツだよな。」
「一生の内に出逢いたいと思ってもなかなか出逢えるようなヤツじゃねー。」
って、いつも僕の事を見ていてくれた。
中でも、
「オメェ〜、ホンっト頭悪ぃーよなー。」
っていうのは、料理長の口癖であり、一番気持ちの籠った言葉だったように思う。
世の中のあらゆる組織の中には、当然上下関係や、しがらみというものが存在する。
そして、トップ未満の全てのクルー(部下)は、そのトップに対して、少なからず遠慮や特有の気遣いといったものを持つ。
ところが、僕(天下一のバカに君臨しているこの僕)一成は、土台、組織で生きるという事を選択の余地にすら入れておらず、また自分の音楽で自分を生かしてゆくって事しか考えてないくらいだから、そもそも胡麻を摺る必要がなかった。
それよりも、礼儀知らずで、図々しくてもいいから、今目の前にいるこの人とちゃんと”会話”がしたいって思った。
というより、それが僕の自然であり、素直な生き方だったから、特別前述のような人格を取り繕ったわけでもない。
たぶん、下っ端しか経験した事のない僕らには分からない、トップだけが持つストレスってのは確かにあると思う。
だからこそ、組織の中には、僕みたいな”馬鹿”が一人くらいいた方が丁度いいと思うのだ。
ーーーーーー
「オメェ分かってんのか?俺とオメェは友達じゃねーんだぞ!?」
「俺が誰だか分かってんのか?」
ーーーーーー
なんか礼儀とかちょっとズレてるし、
無神経なところとか、
時折気に触る所があるけれど、
だけど、
「こいつがいねぇーとなんかつまんねー」
ってな存在、ポジションを獲得出来たら、それって凄くラッキーな立ち位置だと思う。
実際、料理長は僕に対してしか出来なかった事ってのがたくさんあったように思う。
例えば、後にも先にも、純粋に蹴っ飛ばす事の出来た人間は、僕しかいなかったんじゃないかと思う。
そのくらいの信頼関係だった。
ーーーーーー
ある時、例によらず、極度の運動不足を感じた僕は、昼休みを使って外にマラソンをしに行った。
もちろん、午後の仕込み開始までには戻る計算で外出した。
が、そうこうして走ってる内に無性に楽しくなって来てしまい、思いの外ーーというか、その時既に、遊ぶ事しか頭に無くなってしまった僕は、そのまま思うがままに時間を忘れて何処までも専ら走ったのだった。
僕の勢いに圧倒されて、過ぎ行く人は皆僕を振り返った。
待っていました、とばかりに汗が自在に宙を舞う。
これが、僕だ。
僕は、瞬間の心地よさに身を任せた。
数時間後、
僕は広大に広がる田畑の畦道に、
五感をフルに開放しながら、その呼吸を泳がせていた。
年間で最も午後の風の心地よさが感じられる夏の終わりの時期だった。
柔んだ光を浴び、
遊び疲れた鳥達は、静かに神経をほぐし始め、
何処からか零れて来る水の囁きが僕の胸に沁みた。
最高の気分だった。
これ以上の何物もいらなかった。
が、ここで、ふと我に返った。
「ヤバいっ!!!!今何時だ???」
「時計持って来てねーぞ!!!」
いや、明らかに時間過ぎてるよ。
もう既に仕込みも始まって1時間くらいは経過してる頃だ。
これはヤバいっ。
と思った僕は、今度は別の意味で無我夢中に走り出した。
職場を目指して一心に走り出した。
あたかもメロスの如く走り出したのだった。
猫の助けも借りたい程の心境だ。
一切の景色はもう僕の目に止まらない。
あるのは、料理長のカンカンに怒った顔だけだった。
服は千切れ、靴は既に何処かへ無くしてしまった。(←いや、ここのクダリ、完全に嘘だろ!笑)
そうして、
やっとの思いで厨房に戻った僕に、待っていた仕打ちとは・・・・・
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次回に続く。
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